寿くんのトラウマ話11
リビングのテーブルの上に1通の書類が置かれている。
かあさんが帰り際、残して行ったものだ。
『アンタが迷ってたのって、これなのね』
『・・・ああ』
『もう決めたの?』
『・・・』
『どちらにしてもきちんとお会いして、自分の口から伝えなさい。かあさん、明日も来てあげるから』
『え・・・いいのか?』
『大事な息子の将来だものそれくらい大丈夫よ。・・・それに悪いけど土・日しか来てあげられないから、
私が必要な時はなるべく週末にお願いね?』
『・・・すまねぇ』
『いいのよ。じっくり話し合ってらっしゃい。日下部さんも待っていると思うわ』
『・・・かあさん・・・オレは・・・』
『ねぇ吾郎・・・アンタの人生はアンタのものなんだから、私達に気を遣うことはないのよ?そりゃ私だっ
て今度こそはと思ってたからちょっぴり残念にも思うけど、でも別にいいの。かあさんはアンタがこの
日本で野球をやってくれることの方がよっぽど嬉しいの。とうさんには悪いけど、とうさんとアンタが同
じチームになるのは、とうさんが監督になってからでも遅くないと思うわ』
『かあさん・・・』
『あ、これとうさんには内緒ね?あの人、コーチ業からなかなか脱出できないものだから、内心イライラ
してるみたいよ・・・ふふっ』
『オヤジはまだ若いよ。監督になるには100年早ぇだろ』
『100年だなんて失礼ね・・・そんな無能な人じゃないわよ、とうさんは。でも・・・いつかそうなった時に
は、アンタが付いててやってね。とうさんも野球人としてのアンタをすごく愛しているのよ。自慢の息子
なの』
『あぁ・・・そうだな』
『真吾もちはるも、みんなアンタを好きなのよ。どこにいてもいいから、それだけは忘れないで』
『ん・・・』
『それに寿也くんもね。あの子のことも私達はみんな大好きなのよ。家族の一員なの』
じゃあ管理人さんの所へ挨拶してから帰るわね・・・と言い残し、彼女は別荘を後にした。
弟妹達の世話の合間を縫って、家から決して近くは無いこの山奥に来てくれたのは、この書類を届ける
ため。
・・・彼女がここへ来た本来の目的がそこにあった。
*
「・・・起きたか」
一体どれだけ寝れば気が済むのか・・・精神ってのは本当に厄介なものだ。
眠ってスッキリするならそれはそれでいいんだが、実際そんな簡単なものでもあるまい。
パニックを起こした寿也がようやく目を覚ましたのは、もう夕刻に近かった。
闇が迫る中、遠くで雷鳴が聞こえている。
「腹減ってねぇか?それとも何か飲むか?」
パジャマ姿のままスリッパも履かずリビングに現れた幼馴染みは、何かに怯えるような仕草で近付いて
来た。
そして窓の外が一際明るくなったと思った刹那、タックルするように倒れ込んでオレにしがみ付く。
背中に回された腕は震えていた。
「・・・どした?雷が怖いのか?」
そういえば以前、「雷は苦手」とか言ってたような気がする。
からかったら「理屈じゃない」って、ものすごく悔しそうな顔してたっけ・・・。
こんなものが苦手なのかと、あまり見ることのない弱点にちょっと嬉しくなったのを覚えている。
「大丈夫だから・・・すげー遠いって」
山の天気が変わりやすいとはいえ、降り出してもこの分なら大したことはないだろう。
光も音もいずれ去って行き、また静けさを取り戻す。
だが、偶然手に入れたこの温もりを手放したくなかったオレは、寿也の背中に手を当て、あやすように
何度も擦った。
しばらくそうしていると、震えの止まった寿也が口を利いて来た。
「・・・吾郎くんは怖くないの?」
「え?」
顔はオレの胸に押し付けたまま、驚くオレを他所に幼馴染みは話し続ける。
もしや元のコイツが戻って来たのかと、一瞬期待に胸が高鳴った。
「僕、大きな音って嫌いなんだ・・・吾郎くんは平気?僕はダメ・・・嫌いだよ」
「何で?」
「だって・・・何だか怒られてるみたいだもん」
「誰に怒られてるんだよ?」
「誰って・・・とうさんやかあさんが・・・」
ここで寿也の声が止まった。
どうやらまだガキのままだったらしい。
自分に対してなのか両親の夫婦喧嘩のことを言っているのかはよく分からないが、家族が出て来た所
で話すのを止めてしまった。
・・・寿也は自分の親を悪く言いたくはないのだ。
幼いながらもひどく気を遣っている。
「ここには誰もいねぇよ。オレだけだ」
「うん・・・吾郎くんならいいんだ。吾郎くんの声は大きくても好き。とうさんやかあさんと違って明るいもの。
怖くないよ」
「オレの声・・・好きなんだ?」
「ん・・・大好き・・・」
初めて聞いた告白に嬉しく思う反面、どうしようもない虚しさが込み上げる。
今の寿也は『昔のオレ』を好きだと言っているのだ。
いや・・・昔と言うよりどこか別次元のオレを見ているような感じだ。
こんなに傍に居て同じ体温を共有しているというのに、コイツの目に今のオレは映っていない。
・・・どうして思い出さない?
何で忘れてしまえるんだ・・・!?
突如。
怒りが腹の底から沸々と湧き上がって来るのを自覚した。
それは雷の重低音にも似て。
苛立ちが頂点に達し、オレは思わず「ふざけるな!」と寿也を突き放した。
よろめいた幼馴染みがバランスを崩しながらも転ぶのを堪え立っている。
日頃の鍛錬の賜物であろうその動作に、余計腹が立った。
「やめてくれっ!オマエは違う・・・今のオマエはオレの知ってるオマエじゃない・・・っ!」
吐き捨てるように叫ぶと幼馴染みの表情は一変した。
震える唇以外は凍ったように張り付き、目を瞠ったまま一切の動きが止まった。
そして放たれた言葉にハッとした。
オレは言ってはならないことを口にしたのだ・・・。
「吾郎くんも・・・僕を捨てる・・・の?」
悲しみというより絶望。
そして諦め―――
今のコイツにはオレしかいなかったのに・・・!
唯一の人物に拒否されれば精神は本当に崩壊してしまうかもしれない。
オレは咄嗟に寿也を引き寄せ、加減も構わず力任せにギュウッと抱きしめた。
涙すら流せない幼馴染みに胸が張り裂けそうだった。
「悪かった、寿・・・!オマエはいらない人間なんかじゃない、誰もオマエを捨てたりなんかしない・・・!
オレがいる!オレにはオマエが必要なんだ・・・だから心を閉じないでくれ。頼む、寿・・・行かないでく
れっ!!」
骨が軋むくらい腕に力を入れても、寿也の体は何の反応も示さない。
オレは過去に無いほど後悔した。
「寿也・・・オレを置いて行くな・・・オマエにはまだやるべきことがいっぱいあるだろ・・・?爺っちゃんや婆
っちゃんもオマエを待ってる・・・妹も母親も皆待ってるんだ・・・。何よりオレが・・・オレがオマエを必要と
しているんだ・・・。なあ、寿・・・オレの声が好きだって言ったろ・・・?オレもオマエの優しい声が好きだ
・・・大好きなんだ・・・」
とにかく寿也を取り戻そうと、必死に語りかけた。
今度こそ間違う訳にはいかない。
「寿、オレは・・・」
「・・・吾郎くん・・・す・・・」
「えっ?」
「好・・・き・・・吾郎くん・・・が・・・」
「寿也・・・」
「吾郎くんが好き・・・大好き・・・行かないで・・・僕を置いて行かないでっ・・・!」
「寿ッ!!」
「吾郎・・・く・・・好き・・・」
何度も何度もオレへの想いを口にする寿也に、オレの方が泣きそうだった。
「行かないから・・・オレはここに・・・オマエの傍にいるから・・・。大丈夫だから、一緒にいるから安心しろ。
どこにも行かないからな」
「吾・・・」
「ああ行くもんか・・・オマエを・・・オマエを愛してるんだ、寿・・・!!」
本当に骨が折れてしまうんではないかというほど強く抱きしめ、オレは寿也の肩に顔を埋めた。
こんなことしか出来ない自分が歯痒く、そして情けなかった。
「吾郎く・・・ほんと・・・に・・・?」
「何・・・?オレがオマエを好きかって?・・・ああ、もちろんだ。オマエのことが大好きだよ、寿」
「好き・・・吾郎くん・・・僕・・・も」
「・・・オマエも?オレが好きか?」
「僕・・・うん・・・大好き・・・」
ようやく動いた寿也がオレの背中に腕を回して来る。
だが逆に、振りほどけない程力強くしがみついた手は、コイツの想いの大きさを示している様でもあった。
「ここにいて・・・」
「ん・・・」
「僕を離さないで・・・もう置いて行かないで・・・」
「あぁ・・・」
居ない家族を探して探して・・・探しまくって、やがて脱力するように冷たい床で一人うずくまる幼馴染み
の姿が見えたような気がした。
・・・何でオレはコイツの傍にいてやれなかったんだろうな・・・?
不可抗力だとは分かっている。
でもコイツが両親に置いて行かれた時、もしオレが傍にいたのなら・・・こんな想いをさせなくて済んだか
もしれないのに、とも思う。
歪んだ憎しみも身体を壊すほどの悲しみも、もっとずっと軽減されていたかもしれない。
どうしようもないことをいつまでも引きずるような性格じゃないつもりだが、こればっかりは悔やむ気持ちし
か出て来なかった。
もしかしてオレを恨んでるんじゃないのか?
辛い時に傍に居なかったオレを・・・。
だが、寿也の口からそんな言葉が出て来ることはなかった。
淋しい幼馴染みの心は、ただただオレを求める想いだけで占められていた。
哀れむ気持ちと行き場の無い苛立ち、嫌悪に情けなさが入り交じる。
オレ自身が自分の感情を持て余していた。
八つ当たりをしたとは思わない。
だが傷つけてしまった。
・・・だから確認せずにはいられなかったのかもしれない。
「寿・・・たとえオマエが今のオレを見ていないとしても・・・オマエがオレを好きなことに変わりはないよな
・・・?」
「・・・好き・・・大好きだよ、吾郎くん・・・僕はキミが大好きなんだ・・・」
「ん・・・そうだな」
その言葉だけで十分だ。
過去のオレはもうどうでもいい。
拘っても仕方の無いことだ。
今のオレを刻みつけよう。
思い出さないのならまた2人で未来を作って行けばいい。
回した腕に力が入る。
応えるように強くしがみ付く指先。
それで良いじゃないか。
それ以上何を望む?
・・・その晩、オレは寿也を抱いた。
*
もうちょっと続くんですが・・・ああ、3月中に終われなかった・・・何ヶ月も掛かって書いててもチンケな
話になっているなぁという自覚はあるのですが・・・本人、至って真面目に書いているつもり(笑)なので、
どうか石を投げないで下さいませ~(><)
かあさんが帰り際、残して行ったものだ。
『アンタが迷ってたのって、これなのね』
『・・・ああ』
『もう決めたの?』
『・・・』
『どちらにしてもきちんとお会いして、自分の口から伝えなさい。かあさん、明日も来てあげるから』
『え・・・いいのか?』
『大事な息子の将来だものそれくらい大丈夫よ。・・・それに悪いけど土・日しか来てあげられないから、
私が必要な時はなるべく週末にお願いね?』
『・・・すまねぇ』
『いいのよ。じっくり話し合ってらっしゃい。日下部さんも待っていると思うわ』
『・・・かあさん・・・オレは・・・』
『ねぇ吾郎・・・アンタの人生はアンタのものなんだから、私達に気を遣うことはないのよ?そりゃ私だっ
て今度こそはと思ってたからちょっぴり残念にも思うけど、でも別にいいの。かあさんはアンタがこの
日本で野球をやってくれることの方がよっぽど嬉しいの。とうさんには悪いけど、とうさんとアンタが同
じチームになるのは、とうさんが監督になってからでも遅くないと思うわ』
『かあさん・・・』
『あ、これとうさんには内緒ね?あの人、コーチ業からなかなか脱出できないものだから、内心イライラ
してるみたいよ・・・ふふっ』
『オヤジはまだ若いよ。監督になるには100年早ぇだろ』
『100年だなんて失礼ね・・・そんな無能な人じゃないわよ、とうさんは。でも・・・いつかそうなった時に
は、アンタが付いててやってね。とうさんも野球人としてのアンタをすごく愛しているのよ。自慢の息子
なの』
『あぁ・・・そうだな』
『真吾もちはるも、みんなアンタを好きなのよ。どこにいてもいいから、それだけは忘れないで』
『ん・・・』
『それに寿也くんもね。あの子のことも私達はみんな大好きなのよ。家族の一員なの』
じゃあ管理人さんの所へ挨拶してから帰るわね・・・と言い残し、彼女は別荘を後にした。
弟妹達の世話の合間を縫って、家から決して近くは無いこの山奥に来てくれたのは、この書類を届ける
ため。
・・・彼女がここへ来た本来の目的がそこにあった。
*
「・・・起きたか」
一体どれだけ寝れば気が済むのか・・・精神ってのは本当に厄介なものだ。
眠ってスッキリするならそれはそれでいいんだが、実際そんな簡単なものでもあるまい。
パニックを起こした寿也がようやく目を覚ましたのは、もう夕刻に近かった。
闇が迫る中、遠くで雷鳴が聞こえている。
「腹減ってねぇか?それとも何か飲むか?」
パジャマ姿のままスリッパも履かずリビングに現れた幼馴染みは、何かに怯えるような仕草で近付いて
来た。
そして窓の外が一際明るくなったと思った刹那、タックルするように倒れ込んでオレにしがみ付く。
背中に回された腕は震えていた。
「・・・どした?雷が怖いのか?」
そういえば以前、「雷は苦手」とか言ってたような気がする。
からかったら「理屈じゃない」って、ものすごく悔しそうな顔してたっけ・・・。
こんなものが苦手なのかと、あまり見ることのない弱点にちょっと嬉しくなったのを覚えている。
「大丈夫だから・・・すげー遠いって」
山の天気が変わりやすいとはいえ、降り出してもこの分なら大したことはないだろう。
光も音もいずれ去って行き、また静けさを取り戻す。
だが、偶然手に入れたこの温もりを手放したくなかったオレは、寿也の背中に手を当て、あやすように
何度も擦った。
しばらくそうしていると、震えの止まった寿也が口を利いて来た。
「・・・吾郎くんは怖くないの?」
「え?」
顔はオレの胸に押し付けたまま、驚くオレを他所に幼馴染みは話し続ける。
もしや元のコイツが戻って来たのかと、一瞬期待に胸が高鳴った。
「僕、大きな音って嫌いなんだ・・・吾郎くんは平気?僕はダメ・・・嫌いだよ」
「何で?」
「だって・・・何だか怒られてるみたいだもん」
「誰に怒られてるんだよ?」
「誰って・・・とうさんやかあさんが・・・」
ここで寿也の声が止まった。
どうやらまだガキのままだったらしい。
自分に対してなのか両親の夫婦喧嘩のことを言っているのかはよく分からないが、家族が出て来た所
で話すのを止めてしまった。
・・・寿也は自分の親を悪く言いたくはないのだ。
幼いながらもひどく気を遣っている。
「ここには誰もいねぇよ。オレだけだ」
「うん・・・吾郎くんならいいんだ。吾郎くんの声は大きくても好き。とうさんやかあさんと違って明るいもの。
怖くないよ」
「オレの声・・・好きなんだ?」
「ん・・・大好き・・・」
初めて聞いた告白に嬉しく思う反面、どうしようもない虚しさが込み上げる。
今の寿也は『昔のオレ』を好きだと言っているのだ。
いや・・・昔と言うよりどこか別次元のオレを見ているような感じだ。
こんなに傍に居て同じ体温を共有しているというのに、コイツの目に今のオレは映っていない。
・・・どうして思い出さない?
何で忘れてしまえるんだ・・・!?
突如。
怒りが腹の底から沸々と湧き上がって来るのを自覚した。
それは雷の重低音にも似て。
苛立ちが頂点に達し、オレは思わず「ふざけるな!」と寿也を突き放した。
よろめいた幼馴染みがバランスを崩しながらも転ぶのを堪え立っている。
日頃の鍛錬の賜物であろうその動作に、余計腹が立った。
「やめてくれっ!オマエは違う・・・今のオマエはオレの知ってるオマエじゃない・・・っ!」
吐き捨てるように叫ぶと幼馴染みの表情は一変した。
震える唇以外は凍ったように張り付き、目を瞠ったまま一切の動きが止まった。
そして放たれた言葉にハッとした。
オレは言ってはならないことを口にしたのだ・・・。
「吾郎くんも・・・僕を捨てる・・・の?」
悲しみというより絶望。
そして諦め―――
今のコイツにはオレしかいなかったのに・・・!
唯一の人物に拒否されれば精神は本当に崩壊してしまうかもしれない。
オレは咄嗟に寿也を引き寄せ、加減も構わず力任せにギュウッと抱きしめた。
涙すら流せない幼馴染みに胸が張り裂けそうだった。
「悪かった、寿・・・!オマエはいらない人間なんかじゃない、誰もオマエを捨てたりなんかしない・・・!
オレがいる!オレにはオマエが必要なんだ・・・だから心を閉じないでくれ。頼む、寿・・・行かないでく
れっ!!」
骨が軋むくらい腕に力を入れても、寿也の体は何の反応も示さない。
オレは過去に無いほど後悔した。
「寿也・・・オレを置いて行くな・・・オマエにはまだやるべきことがいっぱいあるだろ・・・?爺っちゃんや婆
っちゃんもオマエを待ってる・・・妹も母親も皆待ってるんだ・・・。何よりオレが・・・オレがオマエを必要と
しているんだ・・・。なあ、寿・・・オレの声が好きだって言ったろ・・・?オレもオマエの優しい声が好きだ
・・・大好きなんだ・・・」
とにかく寿也を取り戻そうと、必死に語りかけた。
今度こそ間違う訳にはいかない。
「寿、オレは・・・」
「・・・吾郎くん・・・す・・・」
「えっ?」
「好・・・き・・・吾郎くん・・・が・・・」
「寿也・・・」
「吾郎くんが好き・・・大好き・・・行かないで・・・僕を置いて行かないでっ・・・!」
「寿ッ!!」
「吾郎・・・く・・・好き・・・」
何度も何度もオレへの想いを口にする寿也に、オレの方が泣きそうだった。
「行かないから・・・オレはここに・・・オマエの傍にいるから・・・。大丈夫だから、一緒にいるから安心しろ。
どこにも行かないからな」
「吾・・・」
「ああ行くもんか・・・オマエを・・・オマエを愛してるんだ、寿・・・!!」
本当に骨が折れてしまうんではないかというほど強く抱きしめ、オレは寿也の肩に顔を埋めた。
こんなことしか出来ない自分が歯痒く、そして情けなかった。
「吾郎く・・・ほんと・・・に・・・?」
「何・・・?オレがオマエを好きかって?・・・ああ、もちろんだ。オマエのことが大好きだよ、寿」
「好き・・・吾郎くん・・・僕・・・も」
「・・・オマエも?オレが好きか?」
「僕・・・うん・・・大好き・・・」
ようやく動いた寿也がオレの背中に腕を回して来る。
だが逆に、振りほどけない程力強くしがみついた手は、コイツの想いの大きさを示している様でもあった。
「ここにいて・・・」
「ん・・・」
「僕を離さないで・・・もう置いて行かないで・・・」
「あぁ・・・」
居ない家族を探して探して・・・探しまくって、やがて脱力するように冷たい床で一人うずくまる幼馴染み
の姿が見えたような気がした。
・・・何でオレはコイツの傍にいてやれなかったんだろうな・・・?
不可抗力だとは分かっている。
でもコイツが両親に置いて行かれた時、もしオレが傍にいたのなら・・・こんな想いをさせなくて済んだか
もしれないのに、とも思う。
歪んだ憎しみも身体を壊すほどの悲しみも、もっとずっと軽減されていたかもしれない。
どうしようもないことをいつまでも引きずるような性格じゃないつもりだが、こればっかりは悔やむ気持ちし
か出て来なかった。
もしかしてオレを恨んでるんじゃないのか?
辛い時に傍に居なかったオレを・・・。
だが、寿也の口からそんな言葉が出て来ることはなかった。
淋しい幼馴染みの心は、ただただオレを求める想いだけで占められていた。
哀れむ気持ちと行き場の無い苛立ち、嫌悪に情けなさが入り交じる。
オレ自身が自分の感情を持て余していた。
八つ当たりをしたとは思わない。
だが傷つけてしまった。
・・・だから確認せずにはいられなかったのかもしれない。
「寿・・・たとえオマエが今のオレを見ていないとしても・・・オマエがオレを好きなことに変わりはないよな
・・・?」
「・・・好き・・・大好きだよ、吾郎くん・・・僕はキミが大好きなんだ・・・」
「ん・・・そうだな」
その言葉だけで十分だ。
過去のオレはもうどうでもいい。
拘っても仕方の無いことだ。
今のオレを刻みつけよう。
思い出さないのならまた2人で未来を作って行けばいい。
回した腕に力が入る。
応えるように強くしがみ付く指先。
それで良いじゃないか。
それ以上何を望む?
・・・その晩、オレは寿也を抱いた。
*
もうちょっと続くんですが・・・ああ、3月中に終われなかった・・・何ヶ月も掛かって書いててもチンケな
話になっているなぁという自覚はあるのですが・・・本人、至って真面目に書いているつもり(笑)なので、
どうか石を投げないで下さいませ~(><)
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